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ヤマハのフォークギターの特徴

ヤマハのフォークギターには
1)戦前から続いている、長い歴史で蓄積したノウハウ
2)大企業ならではの開発力と独自の新技術
この二つが共存しています。ヤマハは歴史が長く材木業者とのパイプが太いため、グレードの高いマテリアルを安定的に仕入れることが出来ます。また加工精度も高く、価格を抑えたモデルであってもしっかり作られています。それゆえ本来個体差のある木材という材料を使用していながら、同じモデルならどれもほぼ同じサウンドが得られます。これはヤマハの技術の高さを物語っており、「個体差」やいわゆる「ハズレ」を気にしなくて良いという安心感をユーザーに与えてくれます。

ヤマハフォークギター、サウンドの傾向

ヤマハのフォークギターは、フォーク/カントリーからブルース/ロックまで、どんな音楽でも使用できるサウンドを持っています。半世紀に及ぶ歴史の中で、いろんなジャンルで広く受け入れられてきた実績のある、フォークギターのサウンドイメージを一般に定着させてきた楽器である、と言えるでしょう。汎用性の高さから「特徴が無い」と言われることすらありますが、それだけバランスのよいサウンドだという意味でもあり、プレイヤーの個性を素直に表現することができます。

ヤマハのサウンドは、ライブや録音の現場でも重宝されます。マイク録りにおいしいポイントが広く取られているので、マイクのセッティングが迅速に決まると言われます。「ヤマハだと録音がスムーズにできる」ため、レコーディングエンジニアに喜ばれる傾向にあります。またボーカルや他の楽器とのアンサンブルでも、他のパートを押しのけて前に出てきたり、逆に引っ込んで聞こえなくなってしまったりということがなく、調和のとれた聞こえ方をします。

響きを良くする「ARE」

ヤマハ独自の技術「ARE」は「Acoustic Resonance Enhancement(=生の響きを増大させる)」の略で、温度/湿度/気圧の操作により短期間で木材を熟成させ、ヴィンテージと同じ状態にさせる技術です。現在ではLシリーズ全モデルのトップ材に採用されているほか、ヴァイオリンや音楽ホールの木材にも使用されています。木材を物質的に変化させて音響性能を向上させるのは、マーチンの「VTS」と同じ方向性だと思われますが、詳細については企業秘密になっています。

ピックガードのこだわり

Lシリーズのピックガード

Lシリーズ

ヤマハのLシリーズは、FGの高級手工モデルとして1974年にデビューし、40年を経てなおヤマハのフラッグシップとして認知されています。モデル名の「L」は「Luxury(=ラグジュアリー/高級品)」に由来し、その名の通りの美しさと音の良さを持っています。ヤマハは素直なサウンドの製品を作ることを矜持としていましたが、近年のLシリーズでは「良いアコギのサウンドとは?」というQに対するヤマハなりの回答が反映されており、くっきりとしたトレブルを残しながら中低域が主張するサウンドを持っています。

ARE処理したイングルマンスプルースを全モデルのトップ材に採用
マーチンのギターに採用されているシトカ・スプルースは、輪郭がくっきりとした明るく心地よい鳴り方をすると言われます。それに対してイングルマンスプルースは、奥行きを感じさせる雄大な鳴り方をします。イングルマンスプルースは鳴りすぎて輪郭がぼやけてしまうことがあり、材の個性を殺さずにきちんとギターを作ることは難しいと言われています。
Lシリーズのトップ材は、このイングルマンスプルースで統一されています。全モデルAREの施された単板で、接着面を広くとったネックジョイント法や独自のブレーシングにより、迫力ある中低域と明瞭な高音域を共存させています。

5層の「積層強化ネック」を全モデルに採用
Lシリーズのネックグリップは、安心して演奏に集中できる握り具合を目指し、エッジ部分は丸く、厚みを若干押さえた形状になっています。
「1ピースネックの高級感」よりも、「環境変化や弦の張力に負けない安定感」を重視し、Lシリーズは全モデル5プライのネックを採用。反りやねじれが発生しにくく、弾きやすい調整が長期的に維持できます。トラスロッドは順ぞり/逆ぞり両方に効きますので、シビアな調整もしっかりできます。
ヘッドとネックが一体化しており、またボディとのジョイント部は接合する面積が大きく取られ、振動を伝達するという重要な役割もしっかり果たされています。

石粉目止めラッカー塗装
36以上のグレードでは、「石粉目止めラッカー塗装」が施されています。塗装において木材の導管を埋めて平らにする処理を「目止め」と言い、通常は砥の粉(細かい土)や胡粉(=こふん。白い顔料)が使われます。ここで目止めに石の粉を使用することで立ち上がりが向上し、ダイナミックスレンジが格段に向上(=強弱がしっかり出る)します。

3種類のボディ形状

左から:LL36、LS36、LJ36

Lシリーズにはサイズの異なる3つのボディシェイプが用意されており、体格や好みに合わせて選択できるようになっています。

  • LL:マーチンで言うところの「ドレッドノート」で、くびれが少なく大型。低音と高音が豊かに響き音量があるため、特にコードストロークに好まれます。

  • LS:マーチンで言うところの「000(=トリプルオー)」に相当する、LLに比べてやや小さめでくびれがあり、中音域が豊かに際立つ繊細なサウンドを特徴とします。指弾きやリードプレイに好まれます。

  • LJ:LSのくびれを残しながらサイズをLLに近づけた、特に座って演奏する時のフィット感が良い形状です。バランスが良くストロークでもアルペジオでもリードでも良好で、色々なスタイルの演奏をするプレイヤーに好まれます。

Lシリーズのラインナップ

Lシリーズのモデル名は、「LS26」、「LL16」のように、「ボディ形状(LL/LS/LJ)」+「グレードを表す二桁の数字」で構成されています。ボディ形状については既に紹介しているので、ここではグレードに注目して紹介をしていきます。

86/56シリーズ

LL86 Custom ARE

田中彬博(たなかあきひろ)氏によるデモ演奏

「LL86 Custom ARE」は受注生産のためなかなか市場でも見ることの出来ない、150万円という価格を誇る貴重なフラッグシップモデルです。サイド&バックに貴重なハカランダを単板で使用、接合部分やネックのエッジを彩るウッドバインディング、ヘッドやロゼッタに配置されたアバロン貝のインレイなど、工芸品としても大変美しい逸品です。
56シリーズはこの86をベースに、装飾を若干押さえ、サイド&バックをインドローズ単板に仕様変更したモデルです。これも受注生産品ですが、価格は50万円にまで抑えられています。

Lシリーズの愛用者

吉川忠英

「涙そうそう」夏川りみ           ギター吉川忠英

石川鷹彦氏と並び賞されるアコースティックプレイヤーの草分け的存在で、福山雅治氏、中島みゆき女史、松任谷由実女史、加山雄三氏など、数多くのプロジェクトに参加しています。また、最初に覚えたコードが「F」だったという伝説を持っています(本人談)。
吉川氏のシグネイチャーモデルはLJをベースにカッタウェイを設け、サイド&バックはマホガニー寄りの個性を持つ「セドロ」に変更、更にエレアコ化するなど大規模なカスタマイズが施されていました。

南こうせつ

かぐや姫解散後ソロとして活動。。日本人アーティストとして初めて日本武道館にてワンマン公演を行なっています。代表曲「神田川」は余りにも有名。神田川は二つ目のコードが「B7」のため、初心者ギタリストの悩みの種でした。何千回と歌ってきたという神田川ですが、この曲を聴きたくて来場したファンのために「一文字たりとも歌詞を間違えてはならない」との責任感から、常に譜面台を立てて演奏すると言います。
南氏のシグネイチャーモデルは56シリーズをベースにオリジナルボディシェイプを採用、桜のモチーフをちりばめた可愛らしい印象になっています。

南こうせつ 「神田川」

FG/FSシリーズ

ヤマハのFGは、マーチンのギターを分解し解析した結果をもとに開発された、「国内初のフォークギター」です。日本人にマッチさせたサイズ、求めやすい価格、はっきりとしたサウンドで人気機種となりました。FGは「日本で最も普及したフォークギター」とも言われ、今なお多くのプレイヤーに愛されています。両親や親戚の愛用していた古いFGを譲り受けた、という方も多いことでしょう。

合板で出来た安いギター?
現在のラインナップはボディトップが「スプルース単板」に統一されていますが、サイド&バックについては「単板」と言われていません。ヤマハに限らず現代のギターでは、スペックに「単板」もしくは「Solid」と表記されていないものは、薄板を貼り合わせた「合板」を意味します。手に入りにくくプレミアム感のある単板に対して、合板は安いイメージがどうしてもつきまといます。

しかし、
・合板は強度のため木材の繊維方向を交差させて貼り合わせている
・振動は繊維方向に速く伝わる
以上のことから合板のギターは振動伝達の効率がよく、アタックの立ち上がりに優れる傾向があります。ガツンとアタックが立つFGのキャラクターは、こういう所にも由来しています。

ナトー材について
FGのネックやサイド&バック材に使われている「ナトー」は、枯渇寸前となっているマホガニーの代替材として積極的に採用されています。木目の感じや音響特性がマホガニーに近く、プレミアム感以外のデメリットは確認されていません。ヤマハの使用が目立ちますが、タカミネなど他のブランドでも使用例があります。

FG/FSシリーズのラインナップ

FG/FSシリーズは、マーチンでいうドレッドノートタイプのFGシリーズ、000タイプのFSシリーズで展開されています。はっきりとしたサウンドに求めやすい価格帯と相まって、これからギターを始める人にお勧めできるギターになっています。

型番末尾に付けられている「S」は、トップ材が単板(=Solid)であることを意味しています。

The FG

ヴィンテージ市場で人気のある「赤ラベル」を継承したアップグレード版で、オール単板ボディの高級品です。中低域が豊かな胴鳴りは、ジャキっとしたアタック感よりもリッチな艶やかさが引き立っています。

左から:FG750S、FG730S、FG720S、FG700S

迫力ある音量が得られるドレッドノートタイプのボディ、サイド&バック合板による鋭い立ち上がり、この二つの特徴により、FGは特にコードストロークが映える名機とされています。

FGシリーズのラインナップはサイド&バック材に違いが設けられており、
750:フレイムメイプル
730:ローズウッド
720&700:ナトー又はオクメ(=マホガニーの代替材)
価格に差が設けられていますが、それぞれにマテリアルごとのキャラクターがあり、選ぶ楽しさがあります。720と700は同一仕様ですが、700はネックのバインディングを排し、かつカラーバリエーションをナチュラルに限定することで、もう一歩価格を落としています。

FS730S / FS720S

くびれがあり若干スリムなFSは、小柄なプレイヤーにも抱えやすく、FGに拮抗する人気を持っています。FGの弦長650mmに対して若干短い弦長634mmは弦の張りが抑えられ女性にも弾きやすく、繊細なニュアンスのあるトーンはアルペジオやリードプレイにも好まれます。
FG同様730はサイド&バックがローズウッド、720はナトーまたはオクメになっています。

FG-Junior

FGを5分の4にダウンサイジングした「FGジュニア」は、低価格ながら楽器本体のマテリアルが全て天然で、小さな子どもが弾く、あるいは大人が趣味や遊びで持つための理想的なミニギターです。
合板ボディの基本モデル「JR2」とトップを単板にアップグレードした「JR2S」があり、カラーもナチュラルとサンバーストの2種類があります。

ヘッドやボディの形状、加工技術を誇示するピックガード、そして明瞭なサウンドといったFGの設計をしっかり継承していますが、それだけではありません。FGジュニアは「子どもの習い事」、「大人の趣味」この二つの目的を重要視しており、ギグバッグも大きなポケットと両肩で背負えるストラップを装備した、便利でしっかりしたものになっています。特にファスナーにYKK製のものが採用されており、マニアの間で密かな話題になりました。YKKは耐久性に優れ、バッグや靴、ジャケットなどの分野では、高級品のファスナーには必ず採用されます。これまでギターのケースに採用された例はなく、ヤマハの攻めた姿勢をはっきりと伺うことが出来るとともに、子どもの荒っぽい扱いに余裕で耐え、またグッズのスペックにこだわる大人がニヤリとするポイントになっています。

1963年に「ダイナミックギター(=鉄弦仕様のクラシックギター)」を開発したヤマハは、1966年には「国産フォークギター第一号」となった名機「FG-180」及び「FG-150」を発表、南こうせつ氏、伊勢正三氏、さだまさし氏らが一世を風靡した日本のフォークブームを支えました。以来その歴史は現在まで脈々と受け継がれ、今日まで国内外の多くのプレーヤーが手にしているギターブランドです。

YAMAHA(ヤマハ)のフォークギターについて

1930年代に入り、マーチンが開発した「ドレッドノート」シリーズが支持を集めていきます。薄い木材で大きなボディを作り、またサウンドホールを大きくしたため、これまでにない大音量が得られました。マーチンD-28を代表とするドレッドノートはピックギターを音量で凌駕し、当時のトレンドだったカントリーやブルーグラスといったジャンルで不動の人気を築きます。

 ギブソンのピックギターは、ピックアップを取付けた「ES-150(1936年)」をきっかけにフルアコへと進化していきます。これ以後ギブソンのアコギは、アーチトップからフラットトップへと転換していきます。

Jシリーズの誕生

 スタンダード化していくドレッドノートに対抗し、ギブソンは1934年からJ(ジャンボ)シリーズを生産します。1937年には「SJ-200(のちのJ-200)」が映画俳優レイ・ウィットリー氏のために作られ「キングオブ・フラットトップ」と呼ばれるほどの人気となり、エルヴィス・プレスリー氏を筆頭に多くの愛用者が生まれました。

Pete Townshend – I’m One (Live At Bush Hall, 2011)
年老いてなお健在なピート・タウンゼンド氏。J-200はどんな演奏でも良好ですが、このようにガンガン弾くスタイルが最も映えます。

もう一つの定番機種「J-45」がリリースされたのは1942年で、翌年には最高グレードの「サザンジャンボ」も誕生します。肩が張っているように見えるドレッドノートに対して、J-45はなで肩のようなスタイルになっており「ラウンドショルダー」と言われます。1954年にはこれにマグネットピックアップをマウントした「J-160E」が発表され、ジョン・レノン氏(ザ・ビートルズ)が愛用した事で人気を博しました。

ギブソン・アコースティックギターの特徴

サウンドの傾向

ギブソンのアコギには、どのモデルにも共通して「ギブソンの音」があるといわれます。それは特に低音弦の鳴り方に現れ、低音が整理されたゴリゴリ感があり、パワフルなストロークプレイに特に良好です。「爪弾くギター」として進化していったマーチンと異なり、「ジャズバンドでリズムを打ち出すギター」として名を馳せたギブソンの到達点が、ココだったわけです。

 一般に「クセが強い音」ともいわれますが、好きな人の心を捕らえて放さない吸引力があります。またコンデンサマイクで録音することを念頭に置いた設計をしており、録音した音はバランスがよくミックスしやすいというありがたい特徴があります。

楽器本体の構造

現在の生産拠点は、モンタナ州ボーズマンのアコースティックギター専門工場です。ロッキー山脈のすそ野に位置し、低湿度で木材の管理に有利だと考えられています。ここには約120名のスタッフがいて、一日80本のペースでギターが手作りされています。

1)ネックジョイント

ギブソンのアコギはマーチンも採用している伝統的な「ダヴテイル(Dovetail)」ネックジョイントで、仕込み角3度で「にかわ接着」されます。ダヴテイルとは鳩(dove)の尾(tail)のように、先端に向かって広がっている形状のことをいいます。ネック側の接合部分が末広がりに成形され、これを受け止めるボディ側はその形状に合わせて彫られ、これを組み合わせると非常に抜けにくくなります。

 にかわ(ハイドグルー)はヨーロッパでは4000年以上の歴史を持つ接着剤で、

  • 強固に木材を接着できる

  • 熱を加える事で溶かして分解する事ができる

というように、楽器用の接着剤として大変理想的な特徴を持っています。ただしその融点は70度近辺なので、真夏日に車内に放置するとにかわが溶けてしまう恐れがあります。

2)伝統的なニトロセルトースラッカー塗装

多くのブランドがポリエステルやポリウレタンの塗装を採用していく中、ギブソンでは昔ながらの「ニトロセルロースラッカー」を使用しています。乾燥に時間がかかるため塗装の工程には一週間ほどかかりますが、この間にカラーとクリアで合計10〜13層吹き付けます。

ラッカーは時間の経過によって風合いが変化していく、たいへん味わい深い塗装です。ヴィンテージ風のルックスを持つ「V.O.S.(ヴィンテージ・オリジナルスペック)」も同様の工程ですが、塗装面に粗い研磨剤でキズをつけています。

3)ドーム状のトップ/バック

ギブソンのアコギはフラットトップながら、真っ平らではありません。

  • トップ:28フィートR(半径約840センチ)

  • バック:12フィートR(半径約360センチ)

という緩やかなアーチを描くように製造されます。「R」は半径で、1フィートは約30センチです。この方式によりボディに常時ちょうどいいテンションがかかることから、強度が増してトップ/バックが変形しにくくなるほか、ボディ中央にうまく音がはね返るようになり、音響特性が向上します。

4)鳴りを向上させるブレーシング

ボディトップ/バックに貼られるブレーシングは力木とも言われ、ボディの補強をメインの目的にしています。貼られた部位の鳴りが制限されるのを巧く利用し、その配置を操作してトーンアレンジも行なわれます。ギブソンでは職人の手でブレーシングを削る(スキャロップド・カーブドXブレーシング)ことで、振動しやすくしています。

古典的な復刻版などでは、その時代で扱われた「アドバンスド・ワイドXブレーシング」が採用されています。スキャロップ加工されていながら幅が広く、ミディアムゲージにも余裕で耐えられる剛性が特徴です。

5)オール単板が基本

J-160Eなど敢えて合板をセレクトしている一部のモデルを除き、ギブソンのアコギはすべて単板(無垢材)で作られます。材木の確保が困難となっている現代では単板は高価ですが、軽さと鳴りやすさにおいて合板に勝ります。

ステージで大音量で鳴らすことが前提のJ-160Eは、ハウリング防止のために合板が採用されています。

ギブソン・アコースティックギターのラインナップ

ギブソン・アコースティックギターのラインナップは、名機の伝統を継承したさまざまなバリエーションで構成されています。

ここでは、

  • ラウンドショルダー(Jシリーズ)

  • スーパージャンボ(SJシリーズ)

  • スクエアショルダー(ハミングバードなど)

  • スモールボディ(Lシリーズ)

というようにボディシェイプに注目し、それぞれの特徴を見てみましょう。

ラウンドショルダー(Jシリーズ)

「J(ジャンボ)」シリーズは、大型化により大音量化したマーチンの「ドレッドノート」に対抗する形で開発されました。名機としてロック系を中心とした多くのアーティストに愛用される「J-45」は、大型ボディによる迫力のサウンドが持ち味です。ドレッドノートと比べて丸い肩になっていることから、「ラウンドショルダー」と呼ばれますが、これによりドレッドノートには「スクエア(四角い)ショルダー」という呼び名が加わりました。

ギブソン100年史

Xブレーシング

ギブソンの創始者オーヴィル・ヘンリー・ギブソン氏(1856-1918)がニューヨークに生まれる6年前(1850年)、同じニューヨークに移住して開業していたマーチンの創始者クリスチャン・フレデリック・マーチン氏(1796-1867)は、マーチンギター最大の特徴にしてすべてのアコギに不可欠な構造「Xブレーシング」を発明します。ギブソン氏がカラマズーを拠点とする(1881年)前に、マーチンはOO(ダブルオー)を発表しています(1877年)。

ギブソン氏が10平方メートルの楽器工房を開業した1896年の時点で、マーチンは創業から60年以上経過していました。しかし1902年販売会社(ギブソン社)が設立されると、マーチンはギブソンギターの音量に対抗すべくOOO(トリプルオー)を開発します。開業から10年も経ずして、アコギの先駆者だったマーチンにライバル視されるほどになったギブソンのアコギとは、どんなものだったのでしょうか。

ヴァイオリンの工法からマンドリン/ギターへ

ギターと木工が趣味だったギブソン氏は、本業の空き時間を見つけてはヴァイオリンやマンドリン、ギターを作り、演奏して楽しんでいたそうです。この楽器のクオリティが評判になり、売って欲しいという声が多くなっていき、ギブソン氏は遂に独立して工房を開きます。

ギブソン氏は趣味の延長で誰に習うでもなく楽器を作っていたようで、ヴァイオリン製作で学んだ工法を応用して独自のギターやマンドリンを作っていました。当時すでに板材を曲げる加工技術は確立されていましたが、「曲げた木材にはストレスがかかっている。削り出しの方が音響特性は優れている」という信念から、ボディのトップ/バック/サイドを削り出す工法にこだわっていたといいます。ボディだけでなくネックにまで空洞を設けた斬新な設計は、ギター製作を習うことがなかったから実現できたのだと言われます。こうして作られたギターやマンドリンは円形のサウンドホールを持ち、やわらかな曲面を描く美しさと豊かな音量を両立させていました。

偉人の功績

ギブソンの歴史に名を残す名工ロイド・ロアー氏(1886-1943)が在籍したのはギブソン氏が亡くなった翌年からの5年間でしたが、ネックジョイントの変更、Fホールの採用など、ギブソンのギター/マンドリンの工法に大きな影響を及ぼしました(アーチトップ、Fホールのアコギは「ピックギター」と呼ばれます)。

氏の製作したマンドリンは「一台一台振動特性を測定して作られた」という逸品で、ヴィンテージ市場では何千万円という価格が付けられます。氏はマンドリンだけでなくジャズギターの金字塔となったL5も開発し、1920年代から1930年代にかけてギブソンがアーチトップギターの、特にジャズバンドで鳴らすギターとしてトップに君臨するきっかけを作りました

フラットトップへの転換

マーチンへの対抗と生産効率のよさから、ギブソンは1926年よりフラットトップの製造を開始します。ギターが巧すぎて「悪魔に魂を売った」とまで言われたロバート・ジョンソン氏は、このとき作られた「L-1」を愛用していたといわれます。1928年には人気アーティストのニック・ルーカス氏モデルを発表。それまでアーティストモデルという概念はなく、世界初でした。

J-45 Standard

装飾を抑えた基本モデル「J-45 Standard」は、

  • シトカスプルーストップ、マホガニーサイド/バック、ボディ幅16インチ

  • 弦長24.75インチ(ギブソンスケール、ミディアムスケール)

  • マホガニーネック、ローズウッド指板/ブリッジ

  • 堅牢なグローヴァーペグ

  • 基本カラーはヴィンテージサンバースト

を基本スペックとし、

2016年モデルには、

  • 「2016」と記されたロッドカバー

  • シンプルな操作と強弱をしっかり受け止めたストレートなサウンドを特徴とする「LR Baggs Element TVC」ピックアップシステム搭載

  • 指板のエッジを緩やかにして演奏性を向上

  • 「プレック(Plek)」を利用し、可能な限り良好な調整

といった特徴があります。

Gibson 2016 J-45 Progressive Slope Shoulder Dreadnought
Acoustic-Electric Guitar, Autumn Burst

左から:J-29、J-45 Custom、J-45 Progressive

ラウンドショルダーのラインナップは、J-45の伝統的なスタイルを基調として、

  • J-29:ナチュラルカラーでローズウッドサイド/バックのモデル。

  • J-45 Custom:ボディバインディングやロゼッタ(サウンドホール周り)、ヘッドなどに美しい装飾が施され、またサイド/バックにローズウッドを使用した高級機。

  • J-45 Progressive:自動チューニングシステム「G-Force」搭載、チタンサドルのTOMブリッジ、リッチライト指板/ブリッジといった最新鋭スペック。

  • Southern Jumbo Mystic:「ミスティックローズウッド(神秘的な紫檀)」と呼ばれる美しいローズウッドをサイド/バックに使用した最高グレード。

  • J-45 Vintage:貴重なアディロンダック・スプルースを使用した風格ある一台。

  • John Lennon J-160 E Peace:ジョン・レノン氏が愛用したモデル。マグネットピックアップを搭載したエレアコで、鳴り過ぎを抑えるためにトップは合板になっています。

といったバリエーションが豊富に揃えられているほか、J-35、J-15といった価格を抑えたモデルもリリースされています。

上から:J-35、J-15

スーパージャンボ(SJシリーズ)

Jシリーズをさらに大型化させた「SJ-200」は、そのサイズと豊かな鳴りにより「キングオブ・フラットトップ」と呼ばれます。

  • ボディ幅17インチ

  • 弦長25.5インチ(ロングスケール、フェンダースケール)

というサイズはフルアコの最高峰「L-5」と同じで、ルックス的にも音量的にも存在感があります。かのエルヴィス・プレスリーが最も気に入っていたアコギとしても有名で、主演映画にたびたび登場しています。

力強いストロークが映える迫力あるサウンド、繊細な指弾きに良好な反応の良さと充分な音の伸びを持ち、巨体のイメージとは裏腹に高いレベルでオールマイティーなギターです。どんなジャンルでも良好ですが、特にフォーク/カントリーといったジャンルで重宝されています。

SJ-200は、

  • シトカスプルーストップ、メイプルネック/サイド/バックというマテリアルはL-5と同様

  • ローズウッド指板とヘッドにクラウン(冠状)インレイ

  • 「髭状」と言われる特徴あるブリッジ

  • 花柄のピックガード

  • 堅牢なグローヴァー製ペグ

というスペックを基本として、さまざまなバリエーションを展開しています。

では、基本モデルとなる「SJ-200 Standard」をチェックしてみましょう。

SJ-200 Standard

Gibson 2016 SJ-200 Standard Super Jumbo Acoustic-Electric Guitar,
Vintage Sunburst

「SJ-200 Standard」基本モデルながら、J-45の上位機種よりも高いグレードという位置づけです。トップのシトカスプルースはJシリーズより1ランク上、搭載されるピックアップシステム「Anthem(L.R.Baggs)」もJシリーズに採用されている「Element VTC(L.R.Baggs)」より上位のグレードです。

カラーバリエーションにナチュラルとサンバーストがあるほか、

  • シックな黒いカラーリングの「Early ’60s SJ-200 Ebony」

  • ペグやバインディングをアップグレードした「SJ-200 Sunset Burst」

  • サイド/バックにローズを採用した「SJ-200 Rosewood」

  • アバロンインレイが美しい「SJ-200 Elite」

などが限定生産されています。

また、2016年モデルの特徴である

  • 「2016」と記されたロッドカバー

  • 指板のエッジを緩やかにして演奏性を向上

  • 「プレック(Plek)」を利用した、可能な限り良好な調整

が採用されています。

レギュラーラインのバリエーションとしては、高級機として

  • Bob Dylan SJ-200 Player’s Edition:ボブ・ディラン氏が使用するSJ-200を再現した上位機種で、真珠貝を使用した専用のインレイ、両面に貼られたピックガードが第一に目を引きます。楽器本体はアディロンダックスプルーストップ/AAAグレードフレイムメイプルサイド/バックといった高いグレードのマテリアルで組まれています。

があるほか、

J-185

スクエアショルダー(ハミングバードなど)

Jシリーズと同サイズで肩を張ったようなボディシェイプを、「スクエア(四角い)ショルダー」と呼びます。ギブソンのスクエアショルダーは

  • ハミングバード:J-45と同様のスプルーストップ、マホガニーネック/サイド/バック、弦長24.75インチ

  • ダブ:スプルーストップ、メイプルネック/サイド/バック、弦長25.5インチ

というように、鳥をテーマに据えた異なる2モデルが有名です。これら伝統的な代表機の他に、「現代のアコギ」というコンセプトで「ソングライター」というシリーズができています。

Hummingbird Standard

「ハミングバード」はピックガードに描かれるハチドリ(Hummingbird)が目印のギターで、1960年にリリースされました。チェリー系のカラーが印象的ですが、ギターのカラーとして赤をモチーフにするのは当時としては常識を覆す画期的な発想でした。J-45とやマーチンD-18と同じマテリアルであってもサウンドの印象は大きく違い、独特のジャキジャキ感のある音は「ハニートーン」と呼ばれます。ネックがアコギとしてはスリムに仕上げられており、そのためロックギタリストに愛用される事が多いようです。

基本モデルとなる「ハミングバード・スタンダード」はチェリーが退色した状態を再現しており、J-45同様のピックアップシステム「エレメントTVC(L.R. Baggs)」が搭載されます。
上位モデルとなる「ハミングバード・ヴィンテージ」は、熱処理によりトップの色合いがさらにシックになっておりヴィンテージ感満載な印象です。ペグが旧式のクルーソンタイプになっており、ピックアップは付けられていません。

Gibson 2016 Hummingbird Square Shoulder Dreadnought Acoustic-Electric Guitar

Gibson Songwriter Deluxe Studio Acoustic-Electric Cutaway Guitar,
demo’d by Don Ruffatto

「ソングライター」は、ギブソンが伝統に乗っかるだけのブランドではないことが分かる、モダンテイストのアコギです。基本モデルの「スタジオ」に対し、「デラックス・スタジオEC」はカッタウェイモデルになっています。「EC」は「エレクトリック・カッタウェイ」の略ですが、両モデルともエレメントTVCを備えるエレアコになっています。

楽器本体はシトカスプルーストップ、ローズウッドサイド/バック、マホガニーネックというマテリアルで、くっきりとした素直なトーンが持ち味です。このモデル専用のブリッジ/ピックガードのデザインにより、新しいけれどギブソンらしい顔つきになっています。

スモールボディ(Lシリーズ)

ドレッドノートがアコギ業界を席巻する前は、アコギのボディはもっと小さいものでした。1902年以来アーチトップモデルとして生産され1926年にフラットトップにモデルチェンジしたLシリーズは、そんな小さめボディ(でも、当時としては大きい)のギターです。音量競争に追いつけずに廃盤になっていましたが、伝説となっているロバート・ジョンソン氏が愛用したこともあり、復活を望むユーザーの声に答える形で再生産されています。

L-00 Standard

「J-45の音がする小さいギター」という触れ込みで現代に復活したモデルです。ボディ幅は13.5インチで、16インチのJ-45と比べるとふた周りほど違う印象ですが、シトカスプルーストップ、マホガニーネック/サイド/バックというマテリアルとL.R.Baggs製ピックアップシステム、そして弦長(24.75インチ)が共通しており、かなり近いキャラクターになっています。細めの「スリム・テーパー」ネックグリップは、繊細なプレイをそれとなくサポートします。

上位機種には、雄大な鳴りを特徴とするアディロンダックスプルースをトップに採用した「1932 L-00 Vintage」があります。ヴィンテージギターを再現したものなので、こちらにはピックアップは付いていません。

かのロバート・ジョンソン氏が愛用したと伝えられる「L-1」のスタイルを現代に甦らせたギターです。

  • アディロンダックスプルーストップ、マホガニーサイド/バック/ネック

  • ボーン(骨)ナット/サドル

という高級仕様のマテリアルに、

  • 当時を再現した旧式のペグ

  • 12フレット接続

という旧式の仕様が相まって、時代を感じさせる風貌になっています。

これにL.R.Baggs製ピックアップシステムが内蔵され、現代の音楽シーンで大活躍できるギターに仕上がっていますが、このL-1をベースとしたブルースマン「Keb’ Mo’(ケブ・モ)」氏のシグネイチャーモデルがリリースされています。

ギブソン(ギブソン・ギターコーポレーション)は、創始者オーヴィル・ヘンリー・ギブソン氏(Orville Henry Gibson。1856-1918)が19世紀末に立ち上げた楽器工房からスタートし、その時から現在に至る100年以上に渡ってギターのトップブランドとして君臨しています。

などといったエレキギター、
そしてJ-45やJ-200、ハミングバードといった定番のアコギというように、エレクトリック/アコースティック両面で世界的な地位を築いているブランドは他にはありません。
移りゆく時代のニーズを見つめ、またライバル企業に対抗していく中で、ギブソンは常にその先をゆく新しいものを提案しています。現在定番機とされているものの多くはギブソンが初めて発表したものであり、それ以前の世の中にはありませんでした。ギブソンのアコギはこうした流れの中で生まれ、多くのプレイヤーに愛されてきました。現在では定番機の伝統を大事にしながらも時代を見つめ、シーンを見据えたマイナーチェンジを施したモデル展開をしています。

 ここでは歴史、楽器の特徴、ラインナップという観点から、ギブソンのアコギが持つ魅力を追いかけてみましょう。

Gibson(ギブソン)のアコースティックギタ-分析

上:FS730S、下:FS720S

Musical Instrument Maker-2

楽器メ-カ-アラカルト-2

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